古都「アンコール」にあるタ・プローム遺跡。映画『トゥームレイダー』の舞台としても有名ですが、この遺跡の壁にあるレリーフがステゴサウルスを描いたものではないかとネット上で話題になっているのです 。

カンボジアの「タ・プローム遺跡」といえば、アンジェリーナ・ジョリーの主演映画『トゥームレイダー』(2001年)の舞台として有名です。12世紀後半にクメール王朝が仏教寺院として建設。時を経てガジュマルの木々に浸食された石造建築で知られており、古都アンコールの遺跡群の一つとして2004年に世界遺産に指定されています。この遺跡の壁に描かれたレリーフがネット上などで物議を呼んでいます。この寺院ができた当時には絶滅していたはずの動物が描かれているというのです 。

その動物は……ステゴサウルス!

遺跡の壁に書かれている動物のレリーフの一つが「恐竜のステゴサウルスを描いたものではないか」とネット上で話題になっているのです。写真には確かに、恐竜のように大きな体を持つ生き物の背中に、特徴的な板のようなものが描かれています。しかし、ステゴサウルスが生息していたのは、ジュラ紀後期の約1億5000万年前のはず。なぜクメール王国の人々が描けたのでしょうか ? 「 恐竜が東南アジアに生き残っていたことを示す世紀の大発見ではないか」ともささやかれていますが、事実なのでしょうか?パラクシー川の足跡化石の研究で知られるフリー研究者のグレン・クバンさんの論考。それに、スミソニアン協会の科学特派員であるライリー・   ブラックさんがスミソニアン・マガジンに書いた記事を元に、この都市伝説を検証してみたいと思います 。

ステゴサウルスってどんな恐竜?

ステゴサウルスは、かつて北米大陸に生息していた草食恐竜です。体長6~9メートル、体重2トンほど。背中には板状の骨板が交互に並び、尾には4本の棘状の骨がありました。この骨盤には血管が多く張り巡らされていたことから「血液を冷やすことで体の熱を外に逃がし、体温を調整するのに役立っていたのではないか」と福井県立恐竜博物館では指摘しています。ブリタニカ百科事典によると、生息していたのはジュラ紀後期の1億5900万年前から1億4400万年前にかけてだと考えられているそうです 。

ステゴサウルスとタ・プローム遺跡のレリーフの違いとは?

たしかに、問題のレリーフは、一見すると、ステゴサウルスを描いているように見えなくもありません。しかし、グレン・クバンさんによれば、本物のステゴサウルスの背中の骨板は、数がより多く、2列になっていて、形も違います。また、背中から頭や尾に向かうにつれて小さくなっています。また、本物のステゴサウルスの尾には、武器として使われたと考えられている4本のトゲ状の骨があります。さらに本物のステゴサウルスの頭は体に対してとても小さく、レリーフにみられるような大きな耳あるいは角もありません。問題のレリーフに描かれている動物とステゴサウルスとは体の構造的な特徴がだいぶん違っているようです。それでは、問題のレリーフはいったい何を描いたものなのでしょうか ?

「植物を背景にしたサイ」と指摘する研究者も

まず、問題のレリーフに描かれた動物の背中に並んでいる丸い突起物について考えてみましょう。グレン・クバンさんによれば、これは植物をモチーフにした飾り模様で、タ・プローム遺跡にある他の鳥や水牛などの動物を描いた多くのレリーフにもよくみられるそう。そのことを踏まえ、グレン・クバンさんは、問題のレリーフは、サイかカメレオンを描いたものではないかと考えています。何より、レリーフに描かれた動物の頭の後ろには、ステゴサウルスにはない「2つの大きな突起」があります。これは、サイの耳やカメレオンのフリルに似ていると指摘しています。現在では絶滅していますが、かつてはカンボジアにもジャワサイが生息していました。サイはカンボジアでも見慣れた動物でした。カメレオンはカンボジアでの分布は確認できませんが、古代王国にアフリカなどから連れて来られた可能性もありそうです。スミソニアン協会のライリー・   ブラックさんも「植物の葉を背景にサイかイノシシを描いたものである可能性が高い」としつつ、タ・プローム遺跡を訪れた「映画の撮影クルーのイタズラの可能性もありうる」としています。このように「恐竜のレリーフ」をめぐる謎は、まだ決定打となるような説が出ていません。真相が解明される日がいつか来るのでしょうか 。

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古都「アンコール」にあるタ・プローム遺跡。映画『トゥームレイダー』の舞台としても有名ですが、この遺跡の壁にあるレリーフがステゴサウルスを描いたものではないかとネット上で話題になっているのです。

カンボジアのタ・プローム遺跡(Marce Carril / Getty Images)

タ・プローム遺跡の壁にある「ステゴサウルス」と噂されるレリーフ(Bizhan33 / Getty Images/iStockphoto)

ステゴサウルスの復元模型。

ステゴサウルスの全身骨格標本。

ジャワサイ。かつてはカンボジアに生息していました(Stanislavs Vasilkovs / Getty Images/iStockphoto)

『となりのトトロ』トトロが猫バスを呼ぶシーン

抽象的なデザインで描かれた3体のキャラクターが並んでいます。

ガイコツパンダホヤ / 北海道大学リリースページより

マンボウがクラゲを食べる瞬間の様子(海響館がXに投稿した動画より)

アニメキャラクターが空に浮かぶ巨大な輝く十字架を見上げるシーンです。