5色の光で「イヌのこころ」を可視化してくれる、首輪型デバイス「イヌパシー」。2022年にはクラウドファンディングで700%超えの成功も収めた同デバイスについて、開発元であるラングレスの山入端CEOにお話をうかがいました 。

「 ペットの“こころの動き”をデータ化することで、もっといい関係が生まれると思います」――そう語るのは、ラングレスのCEO・山入端佳那さんです 。

すっかり「家族の一員」となったペットたち。コロナ禍以降は、ペットグッズのIT化(ペットテック)が急成長しています。ペットテックは見守りカメラや自動給餌器など多岐に渡りますが、ラングレスが手掛けているのは、愛犬のこころをよみとくデバイス「イヌパシー 」 。

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5色の光で「イヌのこころ」を可視化してくれる、首輪型デバイス「イヌパシー」。2022年にはクラウドファンディングで700%超えの成功も収めた同デバイスについて、開発元であるラングレスの山入端CEOにお話をうかがいました。

2018年にハーネス型を発売した際は1分で完売、2022年にはカラー型(首輪)の先行予約をクラウドファンディングで募集し、目標額の700%超えの反響がありました 。

成功の裏には「家族化」するペットとの関係性の変化があったようです 。

「イヌの傾向」ではなく「この子」と向き合う

――イヌパシーの機能「イヌのこころを可視化する」とは、どういうことでしょうか ?

イヌパシーは、心拍の情報から「興味」「ドキドキ」「ストレス」「リラックス 」 「 ハッピー 」 という5つのこころの状態を分類して、各色で表現することで「こころ」の可視化を実現しました。感情以外にも、行動記録やストレス解析もできます 。

基本となる研究は、Apple WatchやOura Ringと同じく、心拍のR波を読み取ることで、ストレスと集中力を分析する心拍変動解析という技術で、弊社ではイヌ用に独自にアルゴリズムを開発しました 。

イヌパシー・カラー

愛犬のこころよみとく・くびわ型デバイス“イヌパシー・カラー” / Viayoutube.com

――動物は体毛に覆われているので、人間に比べて心拍データがとりにくそうな印象があります 。

毛の上から心拍データをとれるようなセンサーを採用しました。もちろん肌に直接センサーを当てた方が精緻な情報取得ができることもあるのですが、毛を剃るって相当ハードルが高いので … … 。「毛の上からでも」というUXにはこだわりました 。

毛の量が多いイヌでも心拍は取得できるのかとよくご質問をいただきますが、弊社の心拍センサーは音で解析しており、音の性質上、設置面が安定することでデータが取得しやすくなるため、実は毛深い子の方が表面積が大きく、逆にしっかりと情報をとれることが多いです 。

ラングレス代表取締役CEO・山入端佳那さん

――意外です ! ちなみに、どういったきっかけで開発に着手されたのでしょう ? 「 こころ」と向き合うデバイスはあまり聞いたことがなかったので 。

開発者は動物行動学を研究していた専門家で、彼がパートナーの連れ子として出会ったイヌとの関係を築いていく中で、「知識だけではなく、“この子が今何をどう感じているのか”について、もっと知らなくてはダメだ」と気がついたことが研究をスタートするきっかけになりました 。

世の中に出ているイヌに関する情報では、「動物としてのイヌ」という統計的な見方になってしまうので、眼の前にいる「この子」として向き合えるためにはどうすればいいのか … … と考え、行き着いた結果がイヌパシーになります。――「イヌの傾向」ではなく「この子」の趣味趣向を見たいと思った ?

イヌパシーを実際に装着しているところ

そのとおりです。私たち人間でも、「30代の女性はこれに喜ぶ」とか「男性はこれが得意」と言われても、「自分は違うんだけれど … … 」と違和感を覚えたりしますよね。統計的な傾向を知ることは大事ですが、目の前のこの子はそうではなかった、ということもあります 。

――例えば具体的にはどんなことがわかるのでしょうか 。

着けてくれるイヌによってさまざまです。ユーザーさんの声で印象的だったのは、「ドッグランで走ることがイヌは楽しいものなんだと思っていたら、うちの子はじっと他のイヌの様子を眺めるのが好きだった」とか、「飼い主と遊んでいるときよりも、ひとりで噛むおやつを噛んでいるときのほうがハッピー度合いが高かった」などでした。――確かにいわゆるイヌのイメージとは違いますね 。

イヌパシー・カラー機能説明

そうですね。「この子」にストレスの少ない生活を送るための手がかりがほしいと考える飼い主さんはとても多いです 。

複雑化した世の中においてペットたちの存在は家族を超えた貴重な存在に変化していっていると思います。会社を立ち上げた2015年は、ペットの健康管理や心拍解析のテクノロジー市場自体がまだ黎明期でしたが、ペットとさらに強い絆を求める時代に変わってきたことで、テクノロジーへのニーズも強まったのだと思います 。

ガラケーの技術を採用することで小型化

――第一世代のハーネス型もかなりの売れ行きだったとか 。

そうですね、発売前にテレビで取り上げていただいたこともあって、発売開始から1分で完売しました。装着がもっと簡易にできたらというお客様のニーズがあることがわかり、第二世代のカラー型にチャレンジ着手した形になります。――カラー型はクラウドファンディングで、目標の700%超えで達成したんですよね 。

愛犬のきもちを少しでも知りたいという飼い主さんはもともと多かったんだと思います。ただ第一世代のハーネス型は洋服のように面積が多い製品だったので、躊躇(ちゅうちょ)する方も多く、抵抗なく装着が可能なカラー型に進化したことで購入してくださった方が多くいらっしゃいました 。

イヌパシー用アプリ

――小型化が主なアップデートに見えますが、性能面の維持は大変だったのでは ?

性能は小型化に伴って、大幅にアップできました。というのも、ハーネス型の時よりも「モノ作り」自体の経験値が上がったこともあり、効率の良い筐体を採用できたことも大きいです。携帯電話を作っていた方が開発に加わり、6層基盤を採用することで小型化に成功し、かつ防水性もあがりました。――ガラケーの技術が生きていると 。

そうなりますね(笑)。手のひらにおさまるサイズに小さくなった上に、カラー型では、6軸センサーを追加して活動量がより正確に測れるようになりました。1日の活動スコアと睡眠量がグラフで表示されるようになりましたし、お留守番中の見守り機能もつけました 。

イヌパシー・カラー装着写真

ペットの高齢化が問題になる中で……

――最近ではペットの高齢化も問題になっています。確かイヌ、猫ともに寿命が10年前と比べて1歳ほど伸びたとか(※ ) 。

そうですね。シニア犬との付き合いは、人の介護と同じでときには辛く感じる瞬間もあるものです。反応が薄くなっていく愛犬を前に、何が正解かわからなくなって不安になる方もいらっしゃいます 。

ユーザーさんからは、シニア犬と暮らす中で名前を読んだときにイヌパシーの色が「ハッピー」の色になって嬉しかったという声や、外に連れて行っていいのだろうかと不安になりながらお散歩に出かけて「リラックス」になって安心したという声、他には「心拍が止まる瞬間を家族で見守った」という話も伺いました 。

第一世代のイヌパシー・ハーネス

日本では最期まで看取りたいという方が多いので、安らかな最期を迎えられる一助になるといいのかなと思っています 。

数年前にCES(ラスベガスで開催される電子機器の見本市)に行った際は、ペットのメンタルケアに特化するような製品がたくさん出ていてすごく刺激を受けました。コロナ禍で外遊びが出来なくなったことが原因で、メンタルに不調をきたすイヌが多かったからだそうです。動物も人間と同じで、これから「こころ」について、より注目が集まるようになってくると思います。――ペットとの関わり方はこれからもっと変わっていきそうですね。最後に … … 猫版は出ませんか ?

実は開発していないわけではないんです。猫はイヌと同様に四足歩行なので、似ているように見えますが、ぜんぜん違います。身体そのものの柔らかさ、心拍、動き … … 難易度が格段に高くて … … データ自体はとれてはいるのですが、喉がゴロゴロするので心拍がイヌよりも取りにくい(笑)。でも、愛猫家の皆さんからも要望をいただいているので、これから頑張ります 。

イヌパシー・カラー

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