宮崎駿監督が手掛けた不朽の名作『となりのトトロ 』 。 実は、この温かい気持ちになる優しいお話に、“不穏な都市伝説“があるのをご存じでしょうか ?

宮崎駿監督が手掛けた不朽の名作『となりのトトロ』が日テレ系の金曜ロードショーで8月23日午後9時から放送 。

昭和30年代の日本を舞台に小学生のサツキと4歳のメイの姉妹と、不思議ないきもの「トトロ」の交流を描いた作品として根強い人気があります 。

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宮崎駿監督が手掛けた不朽の名作『となりのトトロ』。 実は、この温かい気持ちになる優しいお話に、“不穏な都市伝説“があるのをご存じでしょうか?

温かい気持ちになる優しいお話ですが、かつてネット上で不穏な都市伝説が広まったことをご存じでしょうか ?

どんな都市伝説だった?

2007年ごろに書かれた「トトロ都市伝説から千と千尋の神隠しまで   宮崎駿アニメを読む」という個人ブログ。そこには、都市伝説を以下のように箇条書きで紹介しています 。

①トトロは死神、あるいは冥界への使者であり、トトロに会った人は死が近い、もしくは既に死んでいる

②猫バスは魂を冥界へ運ぶ乗り物

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③メイは行方不明になったとき、すでに池で水死していていて、物語の後半からメイの影が無くなっている

④さつきはメイの魂を救うために、トトロの元へ行き自ら冥界への扉を開けた

「トトロ死神説」その根拠とは?

これらの都市伝説を裏付ける証拠として、このブログには作品終盤、猫バスに乗ってお母さんが入院する病院へお見舞いに行くシーンに関する考察が書かれていました 。

お母さんが入院する病院はカンタのおばあちゃんいわく、「大人の足でも3時間はかかる」距離にあります。そんな遠い距離のお母さんに会いに行ったのに会話をせず、メッセージ付きのトウモロコシを窓辺に置いただけ 。

さらにこの後、お母さんは「今、そこの松の木で、サツキとメイが笑ったように見えたの」といいます。このシーンも、お母さんが二人をはっきり認識できないのは、サツキとメイが「すでに二人が死んでいるからなのです」と指摘していました 。

『となりのトトロ』に登場する大トトロ(スタジオジブリ公式サイトより)

また、メイは行方不明になったとき、すでに池で水死していていて、物語の後半からメイの影が無くなっている。、映画の最後ではサツキとメイに「影が無い」シーンがあり、それが考察を裏付けるものだとされています 。

うーん … … そう言われてみれば納得できるような、できないような …… 。

2007年当時、このウワサは大きく広まり、実際にスタジオに問い合わせが相次いだと、スタジオジブリの公式ブログ「ジブリ日誌」が2007年5月1日付けの記事で報告しています。信じる人がとても多かったのですね 。

サツキとメイの姉妹がお母さんの入院する病院にとうもろこしを届けるシーン

ジブリの公式見解は…?

この記事でジブリ広報部は、「みなさん、ご心配なく。トトロが死神だとか、メイちゃんは死んでるという事実や設定は、『となりのトトロ』には全くありませんよ」とウワサを完全否定 !

「 誰かが、面白がって言い出したことが、あっという間にネットを通じて広がってしまったみたいなんです」「『映画の最後の方でサツキとメイに影がない』のは、作画上で不要と判断して略しているだけなんです。みなさん、噂を信じないで欲しいです」と続けていました 。

都市伝説は「エンディングを物語に含めない前提」制作スタッフが指摘

また、『となりのトトロ』で制作デスクを務めた木原浩勝さんも、この都市伝説に沿った質問を受けると明かしています。著書『増補改訂版   ふたりのトトロ』(講談社文庫)で、「映画を観る者としてちょっと驚く話」と振り返っています 。

木原さんは、この都市伝説が「エンディングを物語に含めない前提でのみ成立」していると指摘しました 。

実はエンディングでは、退院したお母さんと再会し、サツキもメイも秋の服に衣替えしたシーンなど、作中の「その後」が描かれているからです。また、池に浮いていたサンダルも「メイのモノとは違うデザイン」。終わり近くにメイに影がないのも「単に日没を意識してのこと」と解説しています 。

終盤のシーンで道に迷って座り込むメイ。たしかに影が描写されていません

当時、海外の“トトロ好き”にこの都市伝説について聞いてみた木原さんは、ウワサを知っているという人はいたものの、信じている人はおらず、「日本にはあのエンディングの画面がない映像が広まってるんですか?」「どこにそんな死のイメージが描かれているんですか?」と返されたと言います 。

なぜこの都市伝説が広まったか? 木原さんの見解は

木原さんは、この都市伝説が定着した理由について「『となりのトトロ』には冒険活劇要素が含まれていると考えています」「その舞台装置が逆に働いているからではないか」と考察しています 。

その舞台装置とは「トンネル」。木原さんは「『トトロ』にはメイが落ちた穴はもちろん、木が覆い被さってトンネル的に見える場所(光を遮って完全に陰となっている)に入ったり通ったり、抜けたりするシーンが随所にあります」「“国境の長いトンネルを抜けると雪国”であるように、トンネルは冒険活劇においても、一種の舞台転換装置ですが、見方に使い方を変えれば異界への通用門ともなります」と続けています 。

「 『 トトロ』は異界との接点だらけという印象を観るものに与えたのではないか」「この異界の印象により、死のイメージで描かれていると信じてしまうのではないか」と考えたそうです 。

『となりのトトロ』サツキとメイが笑いあうシーン

なるほど、確かにメイがトトロを探すシーンなどは、多くの“トンネル的な場所”を通過しますよね 。

木原さんはこれらの考えについて「私はなにも『トトロ』の都市伝説を否定したくて書いているわけではありません。何をどう書こうと都市伝説はおおむね正しいか否かではなく、信じるか否かの問題だからです」と前置きしています 。

そのうえで「『トトロ』はひたすら“楽しい”で作られている」作品だと補足し 、 あまりに毎回同じ質問を受けるので「もう一度『となりのトトロ』を観ていただければと願って書きました」とつづっています 。

『増補改訂版 ふたりのトトロ』(講談社文庫)

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